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【2025年04月20日07:49 】 |
もうひとつの『鳥籠』
去年、企画された八卦六十四日向に投稿したお題のひとつ。お蔵入りしたネタです。半端なのは、途中でポイしたから(笑)
もうひとつの『鳥籠の君、翼の姫』


夏の風は暑く湿気を含ませじとりと肌に纏わり付き、額に滲ませた汗と四肢へ張り付く衣服の重い感触とで更なる不快度数を上げて行く。
灼熱の太陽にジリジリと身体を焼かれながら、己が影を地面へ落とし熱風に晒されるがままガクリと膝まづいた。

「そこまで──」

低い声が短く発っせられ、倒れ込む藍の影へと追従する動きがひとつ重なる前にピタリと制止する。

「本日はここまで…ネジ、更に精進せよ。ヒナタ、この程度の手合わせで息を乱すでない」

厳しく叱責する声の主は、この炎天下の中荒々しく仕合う若い二人を、老獪な白い眼で鋭く見下ろし顔色ひとつ変えずに中庭へ佇んでいた。

「お、お父様…私はまだ、動けます…。もう一度、お願いします。ネジ兄さん──」

ハァハァと肩で息を吐き荒く乱れた呼吸のまま気丈な声を出したヒナタは、地に臥した半身を引き起こし揺るがぬ意思の力と眼差しをその白い瞳に煌めかせていた。

「ヒナタ様──」

既に呼吸を整え、ヒアシに一礼すべくヒナタの傍らで待つネジは、僅かに眉を潜め困ったようにヒナタの名を呼んだ。

「もう一度、ネジ兄さんと手合わせを…」

砂埃の中、フラフラと覚束ない足どりで立ち上がる娘を一瞥し、ヒアシは素気なく一喝する。

「己の分を踏まえよ。ヒナタ」

父ヒアシの厳格なまでの言葉に、ヒナタの身体は反射的にビクリッと揺れ、僅かに俯き隠された瞳の奥で薄い紫の炎が静かに燻る。

「はい…申し訳ありません。ご指導…ありがとうございました…」

ヒナタは、両の足でしっかりと地面に立つと居住まいを正しぎこちなく藍色の頭を下げる。

「ヒアシ様、ありがとうございました」
ネジもまた深々とヒアシに向かって頭を下げた。
うむ…と、鷹揚に頷いたヒアシは、「ヒナタ…私の茶はよい。これから出掛けるのでな…。ネジ、時間があるなら湯浴みをしていきなさい。汗をかいたままでは身体を冷やす…」そう言付けると、ヒアシ本人は汗など一筋も流さぬ顔で汗だくに疲れきった二人を後にして屋敷奥へと戻って行った。

「ヒナタ様。目先の技に囚われずに、もっと相手の動きに気を配りなさい。新しい技の開発もよいですが、ヒナタ様には少々不向きなのでは?本来、ああいったモノは日向の柔拳には向かないかと…」

ヒアシの去った後、修練に励んでいた中庭の木陰で一息入れる事にした二人は、どちらともなく先程までの手合わせの内容を復習しだした。

「う…。そうかな…柔歩双獅拳は、シノ君やキバ君、それに赤丸君にもいっぱい手伝って貰ったから完成させたいんだけど…ム、ムリ…かな…?」

そんな簡単には諦めきれないとばかりにヒナタは、技の完成度を高め、より実用的に使用する方法を真剣に考え込む。

「ヒナタ様は、微細なチャクラコントロールが出来るのですから、もっと御自身の体力面と技術的なバランスを取らないと…気持ちだけ先走っては、決まる技も相手に見透かされてしまいます」

洞察眼に秀でた日向の能力を効率的に使用しなければ…と、ネジは従兄然とした顔で、つい何時ものようにクドクドお説教を初めてしまう。

「確かに…点穴を打つ柔拳とは違って、あの技はチャクラが両手に具現化するくらい気の放出が多くて大変だけど…ちゃんとコントロール出来れば…」

上忍として任務に励む従兄からの助言に、先だって中忍へ昇任したヒナタも必死に食い下がる。

「最初にチャクラが具現化した時よりも、だいぶ凛々しい子達になってきたんだけどな…。最初なんて本当に…赤丸君のちっちゃい時みたいで、キバ君にすっごく笑われたんだから…」

チャクラをイメージするのに使った赤丸は、大人一人背に乗せられる程の巨体な忍犬であるが、仔犬の頃の印象が強かったのか…はたまたヒナタの力不足だったのか。練ったチャクラを両の手に上手く集めたかと思った瞬間…。ポヒュンと飛び出したのはちんまりとした仔獅子。
ヒナタ自身呆気に取られ、キバには爆笑され、赤丸は小首を傾げて尻尾をひと振りし…そしてあの寡黙なシノでさえ肩を一瞬震わせていた。

「スピードでは、どうしてもネジ兄さんやキバ君達みたいに早い動きには追い付けないし、例え八卦の間合いに入ったとしても、自分の急所をずらす技術を持った敵だっているだろうし…」

実際に点穴を付いたつもりが、微妙に外されていた苦い戦闘経験もある。だからこその剛の技。とはいえ、ヒナタの基本はやはり日向の柔拳であるから、長年染み付いた癖と、使い慣れている呼吸法はそのままに、忍犬使いや蟲使い達の助言を得て彼女なりに編み出したのだろう。
技がそれなりのカタチを取れるようになった段階で、ヒアシやネジの前で今回実演し批評を得ようとしたのだろうが──生憎とヒアシからの苦言はなく。また淡く期待を寄せていたネジからも、好評価は貰えなかった。

「技のバリエーションが増えるのは良いですが、精度を高めるのは結局のところ実戦経験しかありません」

「うっ…そ、そうだよね。実戦で使えなければ、」

持て余した両膝を抱え込んだヒナタは、ハアッと溜息を吐き出した。長く伸ばした髪が、サラリと揺れて華奢な背中を包み隠すように広がる。
ヒナタの言葉の内に、白眼で見えているからこその悔しさが滲む。
汗と埃まみれになって頑張るヒナタの横顔を傍らで見下ろし、ネジは奇妙な既視感に捕われる。
いつだったか、こんな風に前向きなヒナタの姿を見た。

ああ…そうか…。と独り言葉を漏らし、ネジは静かに納得する。
守られるだけだった幼く弱かった少女は、いつの間にか成長し…自らの信ずる心と足で、その白い瞳はしっかりと前を見据えて一人歩きだしていた。もう護り手など必要としない程に強く…立派に。

「──ねぇ、どうかな?ネジ兄さん?」
下から覗き込む純粋な瞳を真っ正面からぶつけられ、ネジは不覚にもドキリと心の臓を鳴らし、その身を軽く後方へと揺らした。

「あ…と、すみません。少し考え込んでいたようです。何か…」

「…?…変な兄さん。今日はこれでおしまいですが、またお時間のある時に、見て下さいね」

「姉さん!湯浴みの準備しておいたよ」

「ハナビ──」



「不思議…なものだな。先日の」







それは、鳥愛づる姫君のお話──。



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【2010年09月18日20:04 】 | 日向小話 | コメント(0) | トラックバック()
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