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【2025年04月20日08:39 】 |
『鳥籠の君―翼の姫』
以前、お誘い頂いた「八卦六十四日向」という企画で掲載して貰った長文なお話です。
前走者からお題貰って、覆面リレーするというなかなかスリルある企画でした(笑)
ちなみに水乃の作品は、ばればれだったらしいです。なんつーかネジのむっつり具合がね(遠い目)

はー、なんか久々に同人誌読みたい。昔収集しまくった一部ネジヒナやらキバヒナやらネジ受やら希少なヒアシ本を読み返したい。
中忍試験でのネジヒナ戦の前。
まだ当時、彼らが従兄妹と判明する前で、禁断兄妹設定なのとかエロエロなのとか…ああ、封印していたお宝本。封印を解いてしまいたい…。
ここ最近、新たなサイトさんやサークルさんを見つけに行けない身の為、萌え補給したい…。
梅雨が明けたはずの今週末は、生憎の空模様。シトリシトリと霧のような白雨が降っているかと思えば、薄い灰色の雲間から、細い一条の光帯をキラキラと伸ばし夏の陽射しがまばゆく地上を照り付ける。

「ああ…また今日も、雨…だね…。」

フウッと悩ましげな溜息を漏らし、少女はツツッーと控えめな動きで中庭へと続く障子の戸を小さく開いた。古趣のある美観と目隠しにと家屋を挟むように植樹された生け垣の深緑の色が、降りしきる雨水に重く濡れている。

「仕方がありませんね。もう暫くすれば、やみそうな気配もありますが…。」

ほんのりと湯気の昇る温かなお茶を頂きながら白い瞳を僅かに細めたネジは、曇りがちな少女の横顔からゆっくりと視線を流し外の雲行きを窺う。

「せっかく今日は任務のお休みが合って、ネジ兄さんが来てくれたのに…午後には雨も上がってくれるといいんだけどな…。」

長い髪を揺らして振り返るヒナタは、まだ未練が残るのか、薄紫に煙る白い瞳を瞬きし残念そうに肩を落とす。

「外での修行はまたの機会を設けましょう。ぬかるんだ足場で行うのも実戦的ではありますが、ヒナタ様はまだ病み上がりでしょう?体調が優れない時に無理をする必要はありません。」

一週間程も拗らしていた夏風邪から漸く回復したヒナタは、この数日で鈍った身体を早く動かしたいと気ばかり焦って、自らの体調管理を軽んじているとネジにやんわりと諭される。

「でも──ネジ兄さんと仕合えるのは久しぶりなんですもの。道場で型の練習をするだけじゃ、なんだか勿体なくて。」

いつも任務で忙しい従兄の貴重な休暇を一日分貰ったのだから、それに見合う事をせねば申し訳ない。こんな時も律儀な従妹殿の態度に、ネジは湯飲みを含む薄い唇の端でそっと苦笑を浮かべてしまう。

「私は構いませんよ。いつなんどきでも…宗家からの呼出しとあればどこであろうと駆け付けるのが私の勤めですから…。」

ヒナタは、もう一度庭先の様子を障子の隙間越しに伺い、諦めたように緩く溜息を吐いてからネジの傍らへスルリと戻った。

「ごめんなさい、ネジ兄さん。我が儘を言って…でも、ネジ兄さん今のはちょっとだけ意地悪ですよ。」

柔らかな物腰で傍らに座るヒナタへ視線を向けると、薄紫の瞳に軽く睨まれる。

「風邪っぽかったのは先週までです。喉の痛みはとっくに治りましたし、今はちゃんと声も出ます。」

重病人扱いされるのを嫌がるヒナタは、遠回しに従妹の身体を気遣うネジの言葉にも不服そうに眉根を寄せてみせた。

「この数週間、その風邪が他の者へ感染しないようにと、ずっと面会謝絶されていたのに?見舞いの言葉すらかけさせて頂けなかったのは…少々寂しかったのですが。」

少しばかり拗ねてみせた優しい口調で唇を歪めるネジの指摘にヒナタは小さく肩を竦める。

「だ…だってそれは…ネジ兄さんには、上忍としての任務がありましたし、万が一風邪をうつして体調を崩してしまったら…って…その…。それに、声も出なかったからきっと満足にお話も出来なかったし…。」

ヒナタは、両の太股をきちんと揃え正座した足の上を人差し指でグルグル意味も無く円を描き、落ち着かな気にお尻を浮かしたり座りなおしたりとモジモジ揺らした。

「ヒナタ様。声が出ないのは、十分に重症なのでは?今朝も雨で肌寒いのですから、今日の所は大人しく室内でゆっくり過ごして下さい。今回の風邪だって任務中だからと無理をして拗らしたのでしょう?…あまり心配させないで下さいね。」

切れ長の眼を柔らかく眇たネジは、時々妙な肩肘をはって無茶をする従妹を優しく咎める。

「はい…ごめんなさい。今度は、もっと考えてから行動します。」

同行した仲間にも同じように叱られたのだろうか。ヒナタは任務終了直後に倒れ伏す醜態を晒した自分の有様を思い出し、シュンと気落ちして素直に反省の色を見せた。

「任務に支障をきたさなかったのは偉かったですね…。幸い火急の用事もないのですから、もう数日はしっかり身体を休めて下さい。もしまた同じ様な状態になったら、熱はでていないと駄々をこねられても…無理矢理にでもヒナタ様を布団に放り込みますよ?」

普段ならばあまり見せない甘さでヒナタをジッと見詰めたネジは、軽い冗談事のような口調でサラリと重ねて休養をすすめる。

「そんなぁ…。もう大丈夫だって言ってるのに。」

丸きり子供扱いされたヒナタは、尊大な従兄の言葉にプウッと頬を膨らませ文句を漏らす。ヒナタとて反省はしている。連日止まらぬ激しい咳を繰り返し痛めた喉は、ぶざまな程に声が掠れて呼吸ひとつ満足に出来ぬ有様で、筆談が出来るとはいえ言葉が出ない事をこれ程に疎ましく思った日々はない。

「ネジ兄さんもやっぱり過保護だよ。咳だけなのに、皆して部屋に押し込むんだもの。」

人と会話も出来ず布団の中で身体を休める以外やる事もない時間は論外長く…余りに暇過ぎて寝るのも飽いてしまったヒナタは、新しい薬湯を運んできた妹にねだって幾つかの書物と目新しい術の巻物とを捜して貰って病中の時間を潰したのだった。

「食欲が戻る迄は駄目だって言われてずっとお布団からは出られないし。お父様の所蔵している古書を数本と、ハナビが書物倉から見つけてきた巻物を読むぐらいしか許して貰えなかったんだから…。」

部屋の隅へ寄せた文机の上には、几帳面に重ねた数本の巻物と、半ばまで読みかけの古い匂いのする巻物がひとつ。

「面白い術の巻物ですね。」

過保護云々…については深く言及せず、途中まで開かれた巻物をひとつ手に取ったネジは、古い墨の掠れた文字を興味深そうな真摯な目で辿り低い声で呟く。

「紙の質からしてかなり古めかしいけれど、柔拳…の型ですか?これは…見た事がないな…。」

ヒナタにも図式が分かるようにと、表面に微細な彩色を施された和紙を手元に引き寄せ広げて見せた。

「あ、ネジ兄さんも気になった?やっぱりそれって──。」

ヒナタは、キラキラと好奇心に満ちた瞳で熱心にネジの手元に描かれた術式を覗き込む。

「これを持ってきてくれたハナビにも聞いたけど、適当に選んできたから分からないって…。後でお父様に詳細を確認してくるって言ってたけど…。」

探究心いっぱいの顔で物珍しい術の解釈を語るヒナタはどれ程ネジに気を…許しているのか。無意識に擦り寄るヒナタの身体が、無邪気な程距離を縮める度にネジの身をジワリと刺激し密やかに眠っていた血を揺り起こし熱くしていく。ヒナタはきっと気付いていないのだろう。いつしか共に吐く息が近い。サラサラと揺れ動く絹の如き藍の髪が頬に触れそうになる度に、ネジは僅かに身を強張らせヒュッと息を詰めた。鼻孔を満たす香しい少女の匂いにクラリと媚薬を吸い込んだような眩暈を覚える。腕を少し上げれば届く距離に在る幸福。たった二人きりの空間に溺れてしまいそうだった。


ネジにとってのヒナタの存在は、常に唯一絶対の仕えるべき日向宗家の長子であった。幼い頃には、小さく可愛い従妹を自分が守るのだと思い。父を失い傷ついた哀しみから少女を恨み。そして今再び、偽りのない心の底から愛しくもこの手でお守りしたいと決めた。だが、ネジの知る小さかった日向の姫は、記憶の中では今だ幼く頼りない少女のままだと言うのに、ヒナタの日々精進する姿は目覚ましく…年々その身体の成長と共に成熟した忍びの技と女性らしい肢体をネジに魅せつけ知らしめる。いつしか──人の陰に隠れ守られるだけだった童女は、傷つきながらも戦う術を学び自ら選んで進む道を歩んでいた。護り手など必要としない程に強く。

「強く…おなりになりましたね。」

言葉にはならない呟きを喉の奥へと押し潰し、眩しいものを見るように、ネジは目を細める。外界にその身を晒される事に怯え縮こまるだけだった小鳥の…力弱く華奢な羽は、もうとっくに成長し強く広い空へとひとり羽ばたける。今更、必死になってネジの手の中で庇護しようなど都合の良い独りよがりなのかもしれない。心の内で言い訳じみていた。

「──でね。ハナビったら、この柔歩双獅拳の事をワンワン拳法って…。兄さん?ネジ兄さん、聞いてる?」

ほんのり薄い紫の色を滲ませた白い眼球が、茫っと視線を外していたネジの白い瞳を覗き込む。

「すみません…少々考え事をしていたようです。何か?」

少女の柔らかな声に現実へ引き戻され数回睫毛を動かし瞬きしたネジは、何事もなかったかの様子でにこやかにヒナタを見詰め返した。

「ネジ兄さん、もしかして疲れてる?私の我が儘で、無理をさせてしまっているんじゃ…。」

ネジの健康状態を見定めるようにスッと視線を強めたヒナタは、押し留められるより早く手首の内側に指を這わせて脈を計る。

「少し…脈拍が早いかな?」

ヒナタは小首を傾げ、躊躇う事なくネジの身体へ熱く脈打つ胸の急所へ触れる。

「ネジ兄さんも、任務だからと言って無理はしないでね?あの時みたいに…生命を賭けるような無茶な事…いくらネジ兄さんの技が卓越しているからって、あんな姿を見るのはもう嫌よ…。」

ヒナタの囁くような声は震え、目尻に盛り上がる水の玉の揺らぎを隠すようにそっと瞼を伏せる。事実。ネジは一度死にかけている。心臓のすぐ横に残る傷痕は、急所を外していたとはいえポッカリと大きな風穴を空けていたのだ。失血死しなかったのが奇跡のような大怪我は、それでも幸運な事に治癒が間に合い皮膚に引き攣れがあるものの奇麗な肌の色をしてもうとっくに完治している。

「アレは…でも、進んで死ぬつもりはありませんでしたよ。ちゃんとチャクラコントロールをして止血しましたし、医療班に回収されるまでは仮死状態の方が生存確率が高いのは分かっていましたから。」

ヒナタの掌が触れるまま…大袈裟に抵抗もせずに、ネジは過去に経験した負傷を何の事は無いと言うそぶりで肩を竦める。

「ネジ兄さんが強いのは知っているわ。私に心配されるのは不満かもしれないけど…それでも…。」

知らぬ土地で命を落とす事など、苛酷な任を帯びた忍びであれば覚悟の上だろう。ネジもヒナタも、その身は骨の髄まで生きる為の…そして死ぬ時の心得を叩き込まれた忍びであり、戦いを知らぬ一般人ではない。何より、二人は日向の一族なのだ。血継限界という稀有な能力の為に木ノ葉の隠れ里から擁護され、揺るぎない掟と厳しい規律とで縛られた一族。

「呪印があるから…どこで死んでもイイなんて思わないで。白眼の秘密を守る為だけにソレがある訳ではないのよ…ネジ兄さんが生きている事は、宗家の為だけじゃないの。」

ヒナタは、美しい顔に辛い表情を浮かべネジに言葉を重ねる。

「死ぬつもりはありませんでした。本当ですよ?あの時、確かに命を落とすかもしれないなと思った瞬間、無性に生きたいと…此処で死ぬのはごめんだと意地汚く足掻いていたのです。」

だからこそ生き長らえたこの命。浅ましい程に深い生への執着は、忘れていた想いとネジ自身の望みを目を逸らしようもなく眼前に晒し思い知らされた。

「ヒナタのモトへカエリタイと…。」
「自分が死ぬ時は、彼女を守る為でありたいと…。」

この気持ちが、幼い頃から分家として刷り込まれたモノなのか…、そうではない他の感情からなのか定かではない。ただ、ヒナタの傍で彼女を全身全霊でもって自分が護りたいのだと気付いたのだ。分家の身は呪印に縛られていると宗家を憎悪していた頃でさえ、言葉の刃でヒナタを傷つけながらも、出来れば忍びになどなってくれるなと心の何処かで願っていた。宗家に逆らえぬ呪印を刻まれた籠の中の鳥だと自身を嘲笑ったネジこそが、ヒナタを外界へ出さずして小さな世界へ閉じ込めようと躍起になっていたのだと。今ならば素直に、その醜く歪んだ幼稚な庇護欲と…独占欲を直視できた。

「呪印は、それ程苦ではありませんよ。これがあるからこそ、躊躇わずに今を生きられます。過去に父が望み選択した道も、今なら納得も出来ます。間近に死を体感したからこそと言ったら怒られるでしょうが、父の想いをはっきり信じられるのですよ。」



ネジの父ヒザシが自らの死でもって守ろうとしたのは、雲隠れとの全面戦争を最小限の犠牲で避けようと宗家から命じられたからではない。仲間が生きる木ノ葉の里全体であり、日向の一族であり、宗家に在る兄であり…そして、幼く小さな雛たる子供達の為だったのだ。我が子を護るのに、たいして深い意味は必要としない。一人の息子を持つ父親でもあったヒザシが命を懸けるのに十分な理由だった。──多分、そう言うコトなのだろう。ほんの数年前にヒアシの口から初めて明かされた過去の真実は、頑固に捩曲がっていたネジの心を緩く溶かして行き、敵を仕留める為に自ら攻撃に身を晒し胸を貫かれて半ば死を覚悟したあの日に…漸く亡き父の想いの意味を悟り知る。

「ネジ兄さん──。」

ヒナタは、いつになく饒舌なネジの口許をジッと見詰めて、彼の言葉を一言も聞き漏らすまいと耳を傾けた。

「戦いの中で自分が仲間の為に犠牲になるとはあまり感じませんでした。自分が今出来る事をするのだと…生きる為に戦っていたつもりです。危険な賭けだと叱られそうですが、意識を失うような負傷をしたのは私の力不足です。ヒアシ様にも…随分とご心配をおかけしました。」

当時、集中治療室から一般病棟へと移ったネジを見舞いに病室へ訪れたヒアシの…あの苦虫を潰したような当主の顔と苦言とをふと思い出し小さく苦笑する。

「お父様が?」

入院中のネジを父ヒアシが見舞っていたと聞き、ヒナタは驚いたらしくパチクリと目を見開く。

「ハイ。お一人でいらっしゃいました。」

父親の行動を不思議がるヒナタの表情を見て、微笑みを浮かべネジは頷く。

「あの日、自らの命を里の為に捨てる道は…呪印を持たない宗家のヒアシ様には許されなかった。…いえ、きっと父が許さなかったのでしょうね。宗家当主に向かって堂々と点穴を付いて、父を生き贄とするのに反対するヒアシ様の身動きを封じたと聞きますから。」

ヒアシにとっても、苦く酷な事だったろう。ヒザシの死後ひとり遺されるネジを守れと…空へ飛ぶにはまだ無力な雛の翼が力強く巣立つその時まで、生きて責任を負えと。日向の当主としての立場に有り続け、一族すべての者に掟の存在を自覚させ堅固な護りを約束させたようなものだ。分家の者は、呪印を刻まれ日向の血に囚われているのではなく、か弱い鳥の雛を守る強固な鳥籠にもなるのだ。ヒザシに託された雛鳥を、ヒアシはただ黙ってその身の下でジッと見守り続けていた。

「先程、ヒナタ様に過保護…と言われてつい思いだしてしまいました。私の父も大概…親馬鹿だったらしいですね。子供の自立に干渉したり不必要な手助けはするなとか、ヒアシ様も私の扱いに困ったでしょうに…。」

幼くとも努力し文武に秀でた甥は、あまり褒められ性格に育たなかったはずだと、過去の自分の行為を振り返りネジは、自嘲気味にククッと肩を揺らす。

「えてして日向の人間は洞察眼が鋭いばかりに、つい…気持ちを言葉にして伝える事を躊躇ってしまう傾向が強いようですね。不器用なのは…遺伝でしょうか?」

ネジは穏やかな表情で、ヒナタの顔を見詰め返す。

「時々…自分が恐ろしくなります。私もまた父と同じ血を引いているのだと。父が良かれと選択した道が、ヒアシ様のお気持ちを無視した行動だったのが理解出来ると言うのに、私はヒナタ様が傷つかぬようにと自分勝手に想い込んで…ヒナタ様を再び同じような檻の中へ閉じ込めてしまいそうになります。」

ヒナタを見詰める視線は揺るがさぬままネジは、苦しげに口角を引き攣らせた。

「ヒアシ様は、素晴らしい日向の当主でいらっしゃいます。そんな風にかくあれと宗家に縛り付けたのが、父の意思であった事が今は恐ろしい。」

手を伸ばしさえすれば、その身へ触れる事が叶う距離だと言うのに…今のネジにはヒナタを自らの胸の中へ抱きしめる勇気はない。そんなコトをしたら最後──きっとまたヒナタの意思を自分は捩伏せようとし、羽ばたこうとする心を無視してただ怖がらせるだけなのだ。やっと…歩み寄れた二人の関係を壊すには、優しい従兄の仮面を外して迄して失うには、生温く甘やかされた兄妹のような時間が惜しかった。飛ぶ翼がある彼女を、醜く歪んだ欲望の枷でもって束縛し自分の傍らへ捕らえてしまう。

「そんな事はないよ…ネジ兄さん。そんな風に思わないで…兄さんは、優し過ぎるよ。」

フルフルと細い首を横へ振り動かし、ヒナタは穏やかな笑みを浮かべてネジの自嘲を優しく否定する。藍色の髪が揺れてサラリと音もなくネジの視界を埋めつくし広がる。

「──ヒナタ、さま。」

ヒナタの腕の中へ、自分が抱きしめられていると気付いたのは数瞬後。柔らかな手にそうっと頭を抱き寄せられ、少女の華奢な肩が、その白い首筋が、ネジの視界と思考を奪う。

「私は、ここにいるよ──ネジ兄さん…。」

ほんのりと目元を赤らめ囁くヒナタの声は、柔らかく掠めるようにネジの耳朶を満たし、愛しくも逃れられぬ拘束力を秘して優しく心を包み込む。充たされる事など無いと…この行き場のない渇きと飢えた醜悪な感情は、決して表に出すまいと…凍った臓腑の奥底へと押し隠してきたというのに。それさえも赦さない美しい絶対者。

「貴女を守りたいだけなのです…私は。」

ネジの白い額に刻まれた鮮やかな服従の絆。スウッと指の腹で確かめるようにヒナタはその呪印に触れて、薄紫の瞳に微笑みを浮かべる。

「この印しは、ネジ兄さんを日向に縛りつける鎖。…そして、私を日向宗家へ閉じ込めてしまう枷でもあるんだね…。」

印のカタチをなぞるように愛し気に指を這わせ肌を撫で下ろす。その甘美な感触にネジの身体がゾクリと粟立つ。まるでそれが淫らな行為をされているかのようで…、背徳の気配にどうしようもなくいたたまれない気分にさせられた。

「好きだよ──ネジ兄さん。言葉では足りないと言うのなら、もっと…束縛して…良いんだよ?」

ずっと…ずっと傍に居てくれたから。憎まれている時でさえ…それを強く感じていた。優しさも愛しい想いも重なり合い今も繋がっている。日向に生まれ落ちた者の断ち難い絆は、固く揺るがぬ呪力でもって二人を別つ術を拒絶する。

「ヒナタ様──ヒナタ…。」

力無く喘ぐネジの声は、抗う術など最初からないのだとただ唯一絶対の名を恭しく呟いた。幼い日、出逢った瞬間からすべては始まり、この身体が生きている限り続く宿命。

「ヒナタ様─、貴女をお護りするコトが、私の存在意義…生きる意思。守るモノのない空っぽな檻など…無意味です。」

日向の掟により刻まれた分家の呪印。ずっと日向の血に閉じ込められているのは自分の方だと、盲目にも信じてきた。けれど真実は、少しばかり複雑で──ずっと護られていた実情に愕然とした。

「ネジ兄さん…、兄さん?」

愛しい恋しい鳥が、優しくネジの名を囀る。

「はい…ヒナタ様。お傍におりますよ。」

この幸運に…目眩がする程の幸福感に、クラリと伏せた瞼の奥で何かが生まれ、ネジの目頭がジワリと熱くなる。この小さな鳥が遠く空高く飛んで行ってしまわないように、柔らかな腕の檻に閉じ込めてしまおう。この身全ての想いと力とを封じ篭めた鳥籠の中に…。

「もうっ…ネジ兄さんったら、まだ信じてくれないの?私は、此処にいるよ。ずっと前からネジ兄さんの隣に…。」

むずがる童女のように、プクリとまろい頬を膨らませたヒナタは、それでも嬉しそうに甘い吐息を漏らすと、長い睫毛を揺らし瞼を閉じて居心地の良いネジの胸の中で柔らかくその身を預けた。

「ネジ兄さんが、私の…私だけの鳥籠になってくれるなら、私は何処にも行かないよ──。空に焦がれて飛んでも、きっとすぐに恋しくなって戻って来てしまうわ。」

夏の日の雨上がり。白く棚びく雲と力強く輝く太陽の下──透き通る青い空の色は、とても美しいけれど…この翼の安らぐ場所はひとつだけ──。

「愛しています──。ずっと…この身が朽ちるその瞬間迄も…。」

これは美しい籠を手に入れた鳥愛づる姫君のお話──。


終り


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【2010年11月03日00:51 】 | 日向小話 | コメント(0) | トラックバック()
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